「巻鮓(まきずし)」の文字が初めてでくるのは、1750年に刊行された料理本『料理山海郷』。
その後、1776年刊の料理本『新撰献立部類集』には、「すだれに浅草海苔、フグの皮、または網を敷いて上に飯を置き、魚を並べて、すだれごと巻く」「紙に敷いた場合には紙を取り、小口から切る」とあるように、ほぼ今日的なスタイルの巻寿司が登場します。
さらに、1802年刊の料理本『名飯部類』で、いろいろな種類の巻寿司が紹介されていることから、巻寿司は江戸中期の1750~1776年の間に生まれ、1783年頃に一般化したと考えられています。
巻寿司が誕生して間もないころは、薄焼玉子で巻いた巻寿司や(『万宝料理秘密箱 前編』)、浅草海苔やワカメ、竹の皮で巻いた巻寿司(『名飯部類』)など、海苔以外のもので巻いたものも多くあったようです。
板海苔は、1700年代前半に、浅草紙の紙漉き製法をヒントに生まれたと考えられており、巻寿司を海苔で巻くようになったのは江戸が発祥と考えられています。江戸時代の風物が紹介されている『守貞漫稿』(1837年刊)には「海苔巻」としてかんぴょうの細巻が紹介されています。ちなみに、『新撰献立部類集』『名飯部類』は関西で刊行された書物ですが、複数の具材を巻く太巻きが紹介されています。この頃から関西では豪華な太巻が好まれ、江戸では具材をたくさん巻くのは粋ではないとすっきりした細巻が好まれていたようです。
寿司は江戸時代末期から高級な店舗と廉価な屋台にわかれて発展しました。
明治時代まで「外売り」が主で、家庭で作って食べるものではありませんでしたが、大正~明治時代になって、家庭でも巻寿司や稲荷寿司、五目寿司などが作られるようになり、昭和初期の頃には、年中行事やお祝い事のあったときなど、家族にとって特別な「ハレの日」に作る、ご馳走メニューの1つになりました。
西暦 | 年号 | 巻寿司・寿司関連の出来事 |
---|---|---|
1685 | 貞享二年 | この頃、早ずし誕生か? |
1716 | 享保元年 | 享保年間に海苔の養殖が品川の海で始まる 同時期に浅草で海苔漉き始まる |
1750 | 寛延三年 | 『料理山海郷』刊(「巻鮓」の文字) これ以降一七七六年の間に巻寿司誕生か? |
1772 | 安永元年 | この頃、江戸で豪商たちの豪遊が盛んに |
1776 | 安永五年 | 『新撰献立部類集』刊(巻寿司の製法掲載) |
1783 | 天明三年 | 『豆腐百珍 続編』刊(「普通の海苔巻」の記載あり) |
1785 | 天明五年 | 『万宝料理秘密箱 前篇』刊(巻寿司の製法記載あり) |
1787 | 天明七年 | 『江戸町中喰物重宝記』刊(巻寿司を商う店の記載あり) |
1800 | 寛政一二年 | 一八〇〇年代初め頃には早ずしが主流に |
1802 | 享和二年 | 『名飯部類』刊(巻寿司四種のつくり方の記載あり) |
1803 | 享和三年 | 庶民料理本『素人包丁 初編』刊(のりすし記載あり) |
1808 | 文化五年 | 文化の初期、深川に「松がずし(いさごずし)」開店 以降、 高価な寿司店が増加 |
1818 | 文政元年 | 文政以前に握り寿司誕生か? |
1824 | 文政七年 | 華屋与兵衛、両国に「与兵衛ずし」開業か? |
1837 | 天保八年 | 守貞漫稿』刊 (握り寿司の図解の中にかんぴょうの細巻あり) |